~寝てりゃなおんじゃねーの?~医学生の日記

2007年8月24日金曜日

グレイズ・アナトミー

私が言っているのは解剖学の教科書ではない。(まあ、解剖学の教科書だって知っている人口の方が少ないと思うが。)私が言っているのはテレビドラマの方である。

まあ、暇だということもあって見始めたのだが、あまりにも現実からかけ離れているのでビックリしてしまう。私はインターンはまだやっていないが、一応医学部の学生として、少しはもう見ている。そこで気がついたのは、確かに医学は素晴しいと思って目指している人は多いがそれは奇麗事。そもそも一般の人が一番頻繁に会うのは内科医であって内科医は比較的血まみれにならないのである。そして患者に会うときには血だらけで会う医者はあまりいない。ニコニコして聴診器を首からかけて会うのである。

それだけなら素敵なのだが、医学部の学生やインターンとなるとニコニコなどしていられない。まず36時間シフトは当たり前なので、皆さんゾンビみたいな顔をしていてあんな綺麗な女医さんはいなかった。この人は普通だったら綺麗だろうと思うような顔の人がいても表情からして美しくないのである。患者からはどやしつけられるし看護婦からは命令されて、虐待されるのにただひたすら耐える毎日らしい。

大体このテレビドラマは設定からしておかしい。なぜERに担ぎこまれてくる患者をインターンが診ているのか?それってER専門の医者がやるんじゃなかったっけ?おまけにEP.1で出てくるあのシーン、あの初日で盲腸摘出、あるでしょう?常識から言ってもインターン初日で執刀させる病院があるだろうか。これだけで私にとっては変である。

おまけにEP.2で主人公が喉につまっていた異物を言い当てる所があるが、あれって考えてみるとヘンである。回りは年季がそこそこ入っている医者なのだ。それが分からなくてインターン入ったばっかりが言い当てるのはちょっとヘンである。おまけに執刀医は男性。見ていた人なら解ると思うが、年季の入っている男性の医師があれが何なのか言い当てられなくて、インターン入ったばかりのグレイが言い当てられるのはまず有り得ない。大体どこでもそうらしいが、インターンというのは常に怒られて指導されて注意されていても、逆は見たことが無い。逆が起きていたらどっちがインターンなのか分からないではないか。インターンて言うのは見習いなのである。見習いが指導者に注意していたらどっちが見習いなのか分かったものではない。

ちなみに私はあのドラマの中で韓国人のクリスティーナに一番性格が似ているらしい。どうその言葉を受け取ったものやら。

2007年8月23日木曜日

楽しき寮生活

今日、寮が本格的に決まった。もしかしたら、街の反対側の寮になったら面倒くさいなーと思っていたのだが、運が良い事に学校から歩いて二分の所である。治安は…良い所ではないが、別にホワイトチャペルみたいに殺人があった所ではないので、そんなに心配はしていない。銀行もすぐ傍で、スーパーやマーケットも歩いてすぐの所である。地下鉄の駅は学校の裏に面している。コンパクトに出来ている所である。

寮には中国系イギリス人のクラスメートが入る事になっている。結構仲が良いし、同じ授業を取っているヤツがいるとありがたい。

クリスマスには家に帰ることになった。結構嬉しい。正月に日本人は必ず家へ帰るのと同じで、クリスマスを一人で過ごすのはかなりミジメなものがある。友達もクリスマスには帰ってくるし、結構楽しい帰国(私の場合、帰国ではないけれど)になりそうだ。

友達(らしき人間)は大学で三人いる。一人はあの同じ寮の中国系イギリス人である。六年生の時にアメリカに来たらしい。父親はロンドン大インペリアル校、母親はキングス校に看護学にいたといっていた。私と近い境遇である。またヴァイオリンを弾くらしい。

もう一人はラッセルスクエアの寮に入る事になったタイ人の女の子である。ビジネスに行くといっている。人懐こくていつも機嫌がいいので、人間づきあいが悪くて無愛想な私とは正反対である。趣味は料理と買い物。食べるのが好きで必要に迫られて料理したり、必要に迫られていやいや買い物に行く私とは全く違うタイプである。彼女は私の事を面白いと思っているらしい。

最後の一人はケンブリッジに住んでいたイギリス人の女の子である。ピアノ科である。髪が短く、どうみてもイギリス人の顔をしている。タイ人の女の子とは一緒の寮。大学では最初に知り合った子である。

あと二十日ぐらいで発つのだが、あまり実感が無い。私の事だから、行く三日前に慌てて荷物を詰めるのが目に見えるようである。一人で住むといっても実感がわかない。まあ、寮だから、アパートに一人っきりとは違うのだけれど。

やっと指輪物語の三巻目の映画を買った。最後があまりよく出来ていなかったので、安くなってからでいいやと思っていたら、二年もたってしまったのである。昨夜見たのだが、その前に素人さんが書いた「妖精の王様の長男の日記」成るものを読んでいたせいもあって笑ってしまった。何しろその日記はあの美しい、幻想的な中つ国が設定ではなく、車が走り、携帯が鳴っていて大学の学食では食べてはいけないという暗黙のルールがある中つ国なのである。つまり、中つ国の作りを持った地球。父親のエルロンドはリヴェンデルの総理大臣で、その息子の主人公は灰色の港にある大学四年生である。彼は自分だけが常識を持っていると思っているのだが、他の家族や知り合い同様、常識のかけらも無いのである。双子の弟(エルロヒアの事ですね)は三歳の頭のままで身体だけ大きくなってしまったような人物で、妹のアルウェンは高校でバレー部にいて、高校卒業後すぐアラゴルンと結婚してしまった。厳粛も神秘もあったものではない。

でも、指輪物語のイベントは設定以外忠実に書かれているので余計可笑しい。何しろ、主人公のエラダンが真面目に悩んでいる事は下らないことこの上ないのである。また、一人一人のキャラが非常に良く出来ていて、また笑える。

高校のクラスメートはほとんどがみんな今週か来週に大学へ発つと言う。私だけ学校が始まるのがイヤに遅いらしい。

2007年8月22日水曜日

医学に行きたい訳

別の話になるが、私は臨床医を薦められた事が人生で一度も無い。逆に止められているばかりである。これは医学部在籍の女子大生としてはあまりある事では無いらしく、よく失笑を買っている事が多い。

そこで私の意志はと見てみると私は臨床をやってもよいと思うが大学病院でやる以外、考えていないのが真実である。臨床をやる研究医といった方が良いだろうか。

小児科医にはなろうと思ったことが無いし。(第一私が小児科医になったら患者が可哀相である。)

考えてみると私が多分臨床医に向かないのは明らかであると思う。裏方になるのは好きだが表立つのはあまり好きではないからだ。接待も嫌いだ。人の顔色を伺って喜ばせるという行為が第一面倒くさい。一人で何かしているのが好きな私には臨床は向かないだろう。

研究医は?一人で何かやるのは好きである。裏で操るのも大好きである。自分の名前を残すのも好きである。また研究医になって業績を上げたら一人でいっぺんに五万人すくえるという優越感もあるし、合理性もある。

簡単に言ってしまうと私は女性的ではないのである。権力、自己顕示、名声などが好きな私にとっては、臨床医になって病院で埋もれて一生を終えるより、研究をして論文に自分の名前を一行残す方が嬉しいのである。手になるより脳になりたいのだろう。自分でも可愛くないと思うし、私が男だったら多分退くだろう。

あと人道的に多分私は臨床医に向いてないのだろう。多分私は患者が人間として哀れで救ってやらねばならない人間としてみるより、新しいデータを出すモルモットに見えるだろうから。大体人間としてみていたら私は人なんて斬れないのである。

ところで私は今日、親友が大学に旅立つのを見送りに行った。彼女はユタ州のモルモン教の大学に行く。常に人を置いてきた私にとっては人に置いて行かれるのはちょっと新しい経験だった。彼女とは九つからの友人関係を保っている。もう八年になる。考えてみると幼い少女だった時から友達なのである。何か神妙な気分になった。

2007年8月21日火曜日

医学部に行く人って…

医学部に進学するやつは全く持って、「こいつだけは医学部にいってはいけない」と思うヤツばかりである。

大抵は動機が不純だ。「金持ちになりたい」なーんてのはまだ可愛い方である。私の場合、「斬りたい」と言うのがまずあった様に思われる。最も、幼い頃は美しい志に燃えていたのであろうが、それは三つの時の事。17歳の今となっては、そんなときの事は面影もなく、猟奇的でサディスティックな欲望に駆られて受験したまでである。

それだけならまだしも良く見るのは「頭がよく思われたかったから」、「人の人生を左右したい」、「神様になりたい」と言うほとんど狂気にちかいものがほとんどである。

動機だけならまだ良い。もっと困るのは、精神的、または能力的に不適切なやつが沢山いるということだ。

私の高校はここら辺で一番の進学校だけあって、医学部予科に決定しているやつが少なくとも二人はいる(私は本科なので別問題)。まあ、自慢できる学校ではないのだが、ここらのほかの学校に比べると進学率はまだマシである。予科に入った事だけで大変なので喜ぶべき事である。そこでこの二人を紹介しよう。

一人はスペイン生れのスペイン人である。親は両方バルセロナ大の医学部卒業。優秀である。長男だけあって非常に期待されている。成績もそこそこ良いし、努力家である。私と同じ化学の授業を取っていて、授業をしょっちゅうサボっていた私にはノートを借りるのにはいい友達であった。

ところが。

本人は小さい頃コックになりたかったのだそうだ。親に猛反対されて断念したらしい。彼の今決められている将来は心臓外科医である。私にしてみれば、料理も心臓を捌くのも同じ様なものなので別にいいんじゃないかと思っていた。それは去年の夏、まだ学期が始まったばかりで彼のことをよく知らないときであった。

しかし授業が進むにつれて、料理どころかこんなヤツに心臓を任せてよいのだろうかと言う疑問が芽生え始め、次第に膨らんでいった。何しろ彼は本当におっちょこちょいで不器用なのである。不注意でもある。それの証拠に私の化学のクラスはProcter and GambleからPyrexの試験管をもらった。Procter and Gambleの社長は私の高校のOBなのである。向こうさんにしてみればゴミをよこしただけなのであろうが、私たちにとっては高価な良い質の試験管をもらうのはうれしい事である。

始めてその試験管を使ったあの日、このわが親愛なる不注意君はなんと二本も試験管をわったのである。そればかりではない。違う日だが彼はクラスメートのネクタイを塩酸で焼いてしまった。そういう事故を彼は連発したのである。

「うーん。こいつに心臓をいじくってもらうぐらいだったら私は死のう。」と私が思ったのも当然だと思う。ところが医学部はそういうことは見ないらしく、彼はらくらくと医学部予科に合格してしまった。

もう一人はアメリカ生れのアメリカ人である。数学(二年生の時に一クラス余分に取っていたので、大学一年生レベルの微分方程式である)と英文学が一緒だった。顔はクリントン元大統領を若くしたような顔である。雰囲気も似ているがもうちょっとにやけている。彼は英文学が全く理解できず、よく先生に顰蹙を買っていた。また彼は英文学のテストで80点満点中18点と言うおそるべき点数をとった経験がある。最も彼は全然気にせずへらへら笑っていただけであった。彼はゴルフ部のキャプテンで州大会で結構いい線を行っていた。ゴルフは三つの頃からやっているらしい。

彼は普通の生徒だったのだが、最上級生になって本性を現し始めた。まず、自分の家でアルコール入りの乱痴気パーティーをやり、逮捕された。その次にフロリダでスピード違反で摑まった。しまいには酔っ払ったある晩友達にそそのかされて太ももに刺青してしまったのである。この刺青がまた趣味が悪い代物らしく、ある人の証言によると、ラーメン丼に描いてあるヘターな龍があるでしょう?あれだったらしい。かなり痛かったと本人は言っていた。

このいわゆるオオバカがやりたいのはなんと整形外科。私は思わず訊いてしまった。

「それって自分の刺青をとるため?」

すると彼は太ももの所で手を動かし、「何?こうやって?」と訊き返してきた。

「うん。」

「そうだぜ。」

一年先輩になんと医学部本科に入った人がいる。刺青と一緒の学校だ。この人がまた変な人で友達はいない。親に徹底的な理系の英才教育をされたらしく、すでに14歳で微積分を終わらせていた。彼は強迫観念症でお昼ご飯のあと、その時私が先生が来るのを待っている所のすぐ脇の階段を彼は必ず上がっていったのだが必ず右の方の階段の左端を上らないと気がすまないらしく、そこに人がいたりすると必ず下りてきてやり直していた過去がある。数学のチームで一緒だったのだが笑っているのを私は見た事が無い。彼は元々工学部に行くのが計画でCalTechに受かっていたのだが、それをけって医学部に行った。私からすると彼は工学部に行った方が良かった人間である。医は一応仁術だが彼は患者を人と思うどころか自分自身が人間離れしている。

そこに持ってきて私がいる。ある日数学のクラスで刺青君が私に医学部にいったら何になりたいのか訊いてきた。

「脳外科医。」

「なんで?」

「患者が絶対意識不明だし。それに面白そうだから。」

彼は顔をこわばらせて言った。「お前に脳をいじられたら直りそうだが性格も変えられちまいそうだ。」

こういう人間が将来の人々の健康管理をして沢山の人の生命を握っていくのである。そういうことを考えると私は背筋が寒くなるがまあ、私がかかる医者は気をつければいいや、私は私にかかんないし、と考えている自分を発見する。一人ぐらい、良心的な医者がいるだろう。私はそいつを見つければよいのである。

ところでKings College Londonの授業は九月24日から始まります。お楽しみに。